中国からの輸入が大半を占め、第2のレアアース(希土類)化が懸念されている漢方薬の原料、生薬(しょうやく)(薬草)。中には世界的な需要の高まりで輸出が制限されているものもあり、不安な思いを抱く患者も少なくない。このまま中国からの輸入に頼っていて大丈夫だろうか。(平沢裕子)
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漢方製剤を扱う製薬会社などで作る「日本漢方生薬製剤協会」(日漢協)によると、平成20年度に使われた生薬の83%が中国からの輸入品。日本産は12%で、ほとんどを中国に依存しているのが現状だ。
中国産が多いのは、中国でなければ栽培できないものが多いためだ。薬草は気候や風土など育った場所によって成分の含有量が異なる。このため、種だけ日本や別の国に持ち込み栽培すればいいというわけにはいかないという。
漢方薬の7割に使われている「甘草(かんぞう)」は、ほぼすべてが中国からの輸入品。甘草は野生品がほとんどで、乱伐による砂漠化の進展で収穫量が激減し、中国政府は約10年前から採取や輸出を制限している。甘草は生薬としてだけでなく、食品添加物や化粧品の原料などにも広く使われており、世界的な需要の高まりで価格は高騰を続けている。
こうした中、大手ゼネコンの鹿島が千葉大などと共同で甘草の人工栽培に成功した。グリチルリチン含有2・5%以上という「日本薬局方(薬事法に基づき定められた医薬品の規格)」もクリアしており、同社には漢方製剤メーカーを含めた企業からの問い合わせが相次ぎ、実用化への期待が高まっている。しかし、日漢協生薬委員会の浅間宏志委員長は「甘味料や化粧品の原料としてならいいのだろうが、漢方の原料として使うのは難しいのではないか」と指摘する。
漢方製剤メーカーの多くは自社で使う生薬の成分含有量を独自に定めており、日本薬局方より厳しくしているものも多いからだ。この数値は医薬品成分として届け出ていることもあり、仮に異なる含有量の生薬を使えば、薬事法違反に問われることになる。「野菜や花の栽培なら味や見た目が似ていればどこで作ってもいいのだろうが、生薬はそういうわけにはいかない。各社とも危機感はあるが、中国でしか手に入らない生薬もあり、今後も輸入に頼らざるをえない」と浅間委員長。
生薬の中国依存のリスクについては、平成20年にも問題になったことがある。ギョーザ中毒事件の影響を受け、同年3、4月に中国の一部地域からの生薬の輸出が停滞した。幸い5月以降は輸出が回復し漢方薬の供給が滞ることはなかったが、日漢協は再発防止のため訪中団を派遣、生薬の安定供給の確保について中国政府と協議している。
一国依存のリスクは認識していても、国内や他国での生産への切り替えは現状では難しいだけに、浅間委員長は「業界として、中国との良好な関係構築を維持できるよう努力したい」と話している。
■事業仕分けで保険外しも
漢方は5~6世紀に中国から伝わった経験医学をもとに、日本の気候や風土、体質に合わせて発展してきた。このため、使われる薬草や鉱物などは、本来は中国にあるものがほとんどだ。
日本で生薬の栽培が盛んになったのは江戸時代。鎖国で中国からの輸入が途絶えたことから、八代将軍・徳川吉宗が似たような作用を持つ植物の栽培を奨励したためといわれている。ただ、気候・風土が異なる日本ですべての生薬を栽培することはできず、当時も必要な薬草は長崎から入っていたとされる。
その後、日本で西洋医学が主流となったことで漢方薬の需要は激減。再び需要が増えるのは昭和51年、漢方エキス剤が医療保険の適用対象になってからだ。
医療保険をめぐっては、一昨年の行政刷新会議の事業仕分けで漢方を保険適用外にするとされたが、患者や医師から猛烈な批判の声が上がり、結局は継続されることとなった。
昭和51年、日中医薬研究会創設に当たって創設者の渡辺武博士が定められた「規」の第2項は、
「広く本草に精通し医薬資源の自給自足をはかること」である。
博士はこのずっと以前から現在の状況を予測・危惧し警告を発せられていた。
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