クローン牛・豚「安全」
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食品安全委「肉・乳成分に差なし」
体細胞クローン技術で生まれた牛や豚の食品としての安全性について、厚生労働省の諮問を受けて検討してきた内閣府食品安全委員会は12日、「従来の繁殖技術で生まれた牛や豚と差がない」とする評価書案をまとめた。
来月10日までホームページなどで一般の意見を募り、最終的な評価書として同省に答申する。流通解禁の可否や表示方法などは今後、農林水産省などが検討するが、生産コストが高いなどの問題もあり、商品化までにはかなりの年月が必要との見方が強い。
評価書案は国内外230の研究論文を分析。〈1〉遺伝子は従来の家畜と同じで、肉に新規物質は含まれていない〈2〉肉や乳の成分に差がない――などとして、食べても安全と結論づけた。クローン動物は死産や病死が多いが、異常があった動物は早く死に、生後6か月超の牛や豚は「従来の家畜同様に健全」、子孫も「従来の家畜と差はない」とした。
クローン牛・豚については昨年、米国や欧州が安全との評価を公表。どちらも出荷自粛しているが、海外で流通し始めると輸入される可能性もあり、厚労省が安全性評価を急いでいた。
国内で生まれたクローン牛・豚の出荷自粛を要請している農水省の井出道雄次官は12日の記者会見で「商業的にやる必要があるかどうかは(安全性とは)別の判断」と述べ、さらに検討が必要との考えを示した。
商品化には、消費者団体に反対意見があり、生産・流通側にも「コストと消費者の抵抗感を考えると、メリットが少ない」との意見がある。国内では昨年9月現在、体細胞クローン牛557頭、クローン豚335頭が研究用で生まれている。
体細胞クローン技術 核を抜き取った未受精卵に、動物の皮膚や筋肉の細胞の核を移植し、その動物と遺伝子が同じ個体を誕生させる技術。高品質の肉牛や乳量の多い牛などを使い、ほぼ同じ性質の「コピー」を大量生産できると期待されている。
[解説]クローン肉流通には課題
クローン牛・豚について、食品安全委員会が食べても安全との評価書案をまとめたことで、安全性の議論はひとまず決着した。しかし、実際に一般の食卓に上るかどうかは別次元の話だ。
まず、コストの問題がある。国内では和牛の子牛(9か月)1頭が約50万円だが、商業化が一番進んでいるとされるアメリカでさえ、クローンの子牛の値段は1頭当たり150万円以上と報じられるなど、まだまだ高い。このため、農林水産省は「値段的な問題から、クローン牛そのものがすぐに流通することはないだろう」と指摘する。
この見通しを示すのは農水省だけではない。国内の生産現場でも「同じ遺伝子を持つ牛でも、育て方で肉質は全く違ってくる」などと、クローン技術導入に否定的な意見が少なくない。
海外から輸入された場合どうするか。不安を感じる消費者のため表示の問題が浮上するが、遺伝子組み換え食品と違い、クローン食品は遺伝子に差がなく、表示が正しいかどうか検証できないという問題も残る。
クローン技術については、消費者が「何となくイメージが悪い」という感想を抱くなど、現実的な話として受け止められていないのが実情だ。国は、科学的な側面からの「安全」の説明だけでなく、導入のメリットとデメリット、今後の課題など総合的な説明を丁寧に行うことが必要だ。(十時武士、小林直貴)
(2009年3月13日 読売新聞)
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